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工具入門講座〜トルクレンチ編〜


イクを整備/カスタムしようと思ってサービスマニュアルを開けば必ずでてくるメーカーから指定されたさまざまな数値。そんな小難しい数値を味方にするのが計測工具たちだ。ここでは使用頻度の高いトルクレンチ、ノギス類にスポットをあてて紹介しよう。
サービスマニュアルには締め付けトルクやクリアランス指定などさまざまな数値が記載されている。ちなみに写真は締め付けトルクの一覧表。トルクの強さやネジロック剤/グリスの有無などがボルトごとに細かく指定されている。これらの数値がバイクいじりのすべての基本となる

 軸力という不確かな値を守る番人

 サービスマニュアルでしきりにうたわれる規定トルク。整備を始めたなら誰もが欲しくなるのがトルクレンチだろう。

 知って欲しいことはトルクレンチが非常に精密かつ不確かな計測工具ということ。実はネジを固定している力(軸力)とトルクほどいい加減な関係はない(別欄A参照)。
 というのもネジの固定力という確かだが極めて測定の難しい数値ではなく、不完全だが測定の容易なトルクでネジを管理しようというのが規定トルクの考え方と言え、その不完全な数値を測る工具がトルクレンチなのだ。

 現在の主流はプリセット型と呼ばれるタイプのトルクレンチ。一体どんなものなのだろうか?
 事前にトルクをセットするのがプリセット型で、構造は大きく分けて2つ。トグル式は内蔵されたスプリングの強さでトルクを調整する。
 もう一つが四角いサイコロ状のパーツを利用してトルクを測定するチルトブロック式。日本では圧倒的にトグル式が普及している。一般ユーザーの使い勝手を考えた場合も、トグル式が設定トルクに達したときの音、モーションともに大きいので使いやすいだろう。

トルクレンチも他の工具と同じ。適応するトルクの範囲があるのだ。一般的には同じメーカーなら3本ぐらいですべてのレンジに対応できるようになっている。写真はDeeNシリーズ
 
東日 QL100N(プリセット型トルクレンチ)
プリセット型トルクレンチの収納(使用後は必ずトルク設定解除)
プリセット型(トグル式)のトルクレンチは内部のスプリングでトルクを調節している。スプリングを押し縮めるほどトルク設定値が強くなるという構造だ。
それゆえ長時間スプリングを締め付けておくとスプリングがヘタってしまう。
収納時には一番軽いトルク設定にしてスプリングに負担がかからない状態にしておく。
またそれほど神経質になる必要はないが使用するにつれてスプリングは少しずつヘタることも覚えておこう。
メーカーによって頻度は異なるが、定期的にメンテナンスに出すのがコンディションを保つ最善の方法だ。

【別欄A:そもそもトルクって何だ?】

 「トルクフルな…」「低速トルクが…」など、われわれバイク乗りになじみ深い言葉"トルク"。しかしわかるようでいてわからない言葉がトルクなのだ。一体どんな意味だろう?

 もともとの語源は古代ヨーロッパ・ケルト人が、王族のシンボル、戦士のお守りとして着用したカチューシャ状の首飾りまでさかのぼる。この首飾りは螺旋状にひねられた黄金できていたことから、当時のローマ人はラテン語の「巻く/回転させる」という意味の「トルケーレ(torquere)」をもじってこの首飾りをトルクと呼んだそうである。

 現在、整備用語で使われるのトルクもバイクの性能を表すトルクという言葉も基本的に意味は同じで"回転させる力"を表している。整備・カスタムで注意したいのはトルクが決して"ネジを固定する力(軸力)"そのものを表しているわけではないということ。例えば、サービスマニュアルにある"締め付けトルク20N・m"というのは、あくまで"20N・mの力で締めなさい"という意味しか表していないのである。

 なぜそんな回りくどいことをしているのか? 軸力で締め具合を管理した方が確実では? と疑問に思うだろう。たしかにその通りである。ネジごとに軸力が設定できればこれほど確実で安心な管理方法はない。しかし軸力は、締め付けトルク、ネジ/部材の素材、ネジ山の消耗/サビ、グリスの有無などさまざまな要素が絡み合っている。そのため作業現場での計測が非常に難しく実用的ではないのだ。サービスマニュアルにある規定トルクとは、あくまでこの算出しにくい軸力の代用として、大まかにネジの締め付け具合を表している(トルクは軸力の内訳20%を構成する要素)指標にすぎない。

 とはいっても・適当サでは済まされないのがバイクの世界。トルクをかけすぎてボルトをねじ切るぐらいなら笑って済ませばいいが、トルク不足で足まわりのボルトがゆるんだバイクで時速100km/hを出す…、なんてことは考えるだけでも恐ろしい。

 締め付けトルクとは軸力という不確かな数値を最低限確保するために設けられた、安全管理の最後の砦なのである。整備の際には必ずトルクレンチを使い、サービスマニュアルに記載された締め付けトルクを守ろう。

【トルクの算出方法】
トルクは、力点から作用点(ネジ)までの長さと力をかけた数値。つまり1mの長さのスパナで100Nの力をかけたときのトルクは1(m)×100(N)=100N・mとなる。また逆にトルクと工具の長さから必要な力を算出することも可能。0.2mのレンチで100N・mのトルクをかけたい場合。100(N)÷0.2(m)で500N(約51kgf)の力が必要となる。
【地上から宇宙へ】
世界でものの単位を統一しようという動向の中、1993年に施行された新計量法により単位は「SI単位(ISO国際規格)」へ移行された。
この規格では力の単位はN(ニュートン)で表され、トルクはN・m(ニュートンメートル)で表される。これまで使われていたkgf・mとの違いは、1kgf・mが質量1kgの物体に標準重力加速度9.8m/s2(あくまで1G下での数値)を与える力のことなのに対し、1Nは質量1kgの物体に1m/s2の加速度を与える力のこと。
Nの特長は異なる重力下でも使える単位であるということだ(kgf・mは1Gの地上でしか適応できない)。詳しい換算は上の表を参照してほしいが、大まかには1kgf・mが約10N・mと考えて問題ない。また、同様に従来kgf/cm2で表していた圧力の単位もpa(パスカル)へと移行している。
各項目の数値が1のとき、他の単位での数値になるかを算出するときに使う計数表。
例えば5N・mをkgf・mに換算したいのであれば、5に0.102をかけた数値0.51がkgf・mでの数値となる。
なお換算表の数値は有効数字の桁数を定めていない。

 正しく使って正確に!

ンジン、足まわりなど一つ一つのネジを規定トルクで締め付けておかないと重大な問題に発展しかねない部品がバイクにはたくさんある。
そこで登場するのがトルクレンチ。種類は事前にトルクを設定して締め込むプリセット型と、トルクの値を締めながら確認する、ダイヤル型、ビーム型などがある。

【プリセット型トルクレンチ】
プリセット型のトルクレンチはその名の通り、事前に(=プリ)セットするタイプ。同じトルクのネジを何本も締めたり、狭いところで作業するにはもってこい。唯一のネックはトルク規定値のちがうネジを締めていく場合にはそのつど設定値を変えねばならないことだが、使いやすさではビギナーにオススメなトルクレンチだ。
まず規定のトルクを設定する。
目盛りを見ながらほしいトルクの数値までダイヤル(この場合はグリップ)を回して設定する。
この場合設定したトルクの値は22Nm
規定のトルクを設定したら、ダイヤルをロックして作業中にトルク設定値が狂うのを防止する。
ラチェット機構を使ってゆっくりと締め付ける。このとき、ボルトとソケットの軸がズレないように気をつけること。基本的にはラチェットと同じ要領だ。
設定したトルクの値までネジが締まると、トルクレンチの首が「コキンッ!」と折れる。写真ではわかりにくいが使用していれば手の感触ですぐわかる
【使い方…】
使い方はメーカーによって多少の差違はあれど、1)トルクを設定、2)締め付け、3)規定値に達すると首が折れる。という流れは同じ。トルクの値については車輌のサービスマニュアルに記載されている規定値を遵守すること。また、ネジはサビが付着して滑りが悪ければ、ちゃんと締まり切らないうちに設定トルクに達してしまうし、逆にグリスアップしてあるネジをトルクレンチで締め込めばオーバートルクになってしまう。作業の場合にはネジ山の掃除とグリスの塗布の有無を確認してから作業を行おう。

【ダイヤル型トルクレンチ】
中央部にメーターが付いており、それを見ながらネジを締め付けていくトルクレンチ。プリセット型と比べると少々慣れが必要だが、慣れれば手際よくさまざまなトルクのネジを素早く締めることができる。
プリセット型とは違い、目視でトルクを確認しながらゆっくりと締め込む。22Nmのところにある針が置針で、20Nmを差しているのが指針。この場合最大値22Nmのトルクで締め込んだことになる


【使い方…】
使用方法もプリセット型とは違い中央部のメーターを見ながら締めていき、指針が規定値に達したところで締め付け完了となる。ただし難しいのは力をかけた場合、針が力加減によって振れてしまいトルクの最大値がわからないこと。森山代表が使っていた製品は、置針付きのものでありトルクの最大値を記録できるものだった。

【コストパフォーマンスで選ぶなら】(ビーム式トルクレンチ)
どちらかというとダイヤル型トルクレンチに近いものだが、もっとシンプルな機構のトルクレンチがビーム式。締め付けた場合の本体シャフトのしなり具合を利用してトルクを計測するという方式だ。ソケットを付けるヘッドの部分からグリップに向かって伸びているもう一本の棒が指針となり、扇型のゲージの上でトルク数値を指し示す。そのためコツと広い作業スペースが必要となるが、作りが単純なためコスト面で非常に優れているのが特徴だ。


 計測工具はデリケート

注意点→絶対に落とすな! 無理をさせるな! 熱に注意!

計測工具は精度が命。使い方でも書いたが、細心の注意をはらって取り扱おう。
落とせば一発でガタがでたり歪んだりして正確な数値は測れなくなるし、無理をさせても同様に精度が狂ってしまう。

使用中に気を付けるのはもちろん収納時にもしっかりケースに入れて保護する。工具箱の中で他の工具の下敷きになっているなんてことがあってはならない。
またモリヤマエンジニアリングでは計測時に体温で計測機器が温まらないように注意している。これは金属は温めれば膨張するという性質を考慮したもので、とくにより小さな数値をはかるマイクロメータでは黒い樹脂状の部分しか触らないようにしているそうだ。

 トルクレンチと長く付き合うために

ボルトを締め付けると同時に測定も行なうたぐいまれな工具、トルクレンチ。このカタログで紹介するトルクレンチはすべてトグル式。スプリングの伸び縮みでトルク調整を行なっている。

当然使用すればスプリングだけに、サスと同様ヘタリも出るし、それによって正確な計測ができなくなる。ヘタリの指標となるのは1年間の使用、もしくは10万回以上の作動。それを過ぎたトルクレンチは"校正"と呼ばれるメーカーによるメンテナンス作業が必要となるのだ。いつまでもベストコンディションで使い続けるためにもぜひ"校正"は受けておきたい。

2005-04-20
2005-03-24
2005-02-25
2005-01-27
2004-12-21
2004-11-25
2004-10-27
   


 
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